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源氏物語を楽しむための王朝貴族入門(繁田信一)

源氏物語の魅力を深く味わいたいなら、『源氏物語を楽しむための王朝貴族入門』が有意義な資料である。著者である繁田信一氏は、平安時代の貴族の生活や職務などを詳細に解説しており、物語を通じて当時の社会構造や文化を理解する助けとなる。例を挙げると、桐壺更衣という人物は物語において特別な扱いを受けているが、これは歴史的な更衣の地位とは異なり、一般の帝の妃にはない格を与えられていた。彼女が後宮で嫉妬の目にさらされ悪意を受ける背景には、天皇の寵愛を得たことによる他の貴妃たちの妬心と、当時の後宮の厳格な秩序を破ったことがある。

物語内に登場する惟光のような人物は、供人として描かれており、一見すると地位が低いように見えるかもしれない。しかし、彼は「朝臣」と称されている点に注目しよう。惟光は少なくとも五位以上の位階を有する貴族であり、汚れを払ってくれる存在ながら、高い地位を持つ人物であるというのが実際のところだ。紫式部が創造した宮廷の光景は、実際の王朝期の社会構造を色濃く反映しており、これらの事実を踏まえることで、源氏物語をより一層豊かに、多角的に楽しむことができるだろう。繁田氏の解説は、古典を通じて古代日本を学びたい読者には貴重な情報源となり、源氏物語の表層的な読解だけでなく、その背景に潜む意味や価値を教えてくれる。


書籍名:源氏物語を楽しむための王朝貴族入門
著者名:繁田信一
出版社:吉川弘文館