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人間性、正義、社会性…深いテーマに切り込んだ警察小説『県警の守護神』(水村 舟)

県警の守護神: 警務部監察課訟務係

警察小説は一見、犯罪とその解決にフォーカスした単純な物語に思えがちだが、その実態はずっと複雑で、人間の内面や社会の様々な側面を掘り下げる深い「容器」である。明らかにされる事件の背後には、人間ドラマ、個人の成長、組織内の葛藤といった様々なテーマが隠されており、それらは捜査官たちの仕事を通じて繊細に描かれていく。このような多様性が、読者にとって警察小説の魅力の一つとなっている。

異なる部署に所属する警察官が扱う事件の種類が異なるのは当然で、それによって物語の色彩も大きく変わる。人の命を奪う犯罪から、社会の安全を脅かすテロリズム、経済犯罪まで、捜査の舞台は多岐に渡る。このような背景が、警察小説に深みを与え、読者にさまざまな角度から物語を楽しむ機会を提供する。

『県警の守護神』では、警察組織内に存在する一風変わった役割、訟務係が物語の中心になる。彼らは警察が訴訟に巻き込まれた際の対応を担い、民事訴訟における防衛線を構築する。この特殊な任務は、警察活動が常に正義ではなく、時に社会的な議論や批判の対象になることを物語は教えてくれる。

物語は、一見シンプルな根幹から始まる。新人女性警官が事故を目撃し、助けを試みるが、それが思いがけない訴訟に発展する。事件は、一人の警察官が受ける社会的なプレッシャーと、警察組織が直面する複雑な課題を浮き彫りにする。

その中で複雑なキャラクターが登場する。元裁判官である訟務係の警察官で、彼の存在は警察内の「正義」の概念を探求する旅へと読者を誘う。それは組織の意向に反する行動を取り、真実と正義を求める個々の警察官の葛藤を描出する。

この物語では、警察という組織が直面するジレンマ、内部の階級制度、男女間のパワーバランスといったテーマも織り交ぜられている。それらは、警察組織が保持するべき本当の「正義」とは何かという問いに対する答えを探す過程で重要な役割を果たす。

この物語は、単なる事件の解決を超えて、人間性、正義、社会性といった深いテーマにまで踏み込んでおり、読み終わった後も長く思索を促す。『県警の守護神』は、警察小説というジャンルの新たな可能性を拓いた作品であり、読者には続編が期待される。

 

書籍名:県警の守護神
著者名:水村舟
出版社:小学館