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「若者の読書離れ」というウソ(飯田一史)

飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ』は、定着しつつあるある若者の読書に対するネガティブなイメージの検証を行い、長年の出版不況という課題と共に取り沙汰されてきたこのトピックに一石を投じる書籍となっている。メディアが繰り返し報じる「若い世代はもはや読書とは疎遠だ」というステレオタイプに対して、著者は興味深い統計データと深い洞察を持って反駁する。著者は日本の読書状況を徹底的に分析し、メディアによる偏見的な視点だけではない、新しい読書観を示唆している。

具体的に20年間にわたる小中学生の読書率の推移を見ると、読書への興味関心は衰退しているどころか、むしろ「V字回復」として質的にも量的にも改善していることが明らかになる。一方で、このポジティブな傾向はマスメディアによっては十分に取り上げられていないのが現状だ。20世紀末の教育の現場から生まれた読書の推進活動として、朝の読書時間を取り入れた自治体が発表されると不読率の改善が進んだ。しかし、こうした事実にもかかわらず、若年層の読書離れは依然として語られ続ける。

さらに詳細に掘り下げていくと、高校生の読書量は成人と変わらず、青年層が読書を行うか否かは、周囲の環境よりも遺伝的な要因が大きい影響を与えているという興味深い発見がなされる。一方で市場では児童書はますます人気を集めており、成長を続ける一方で、ライトノベルのような特定ジャンルが縮小しているという、予想外の動きがある。

本書のもう一つの鮮明な特徴は、中高生たちがどのような読書嗜好を持ち、どのような本に興味を示しているのかという点に著者が触れていることである。経験豊かな著者は長年出版業界を見てきた経験をもとに、数字だけに頼らず、中高生の間で流行する書籍をそのマーケティング的背景と共に洞察する。山田悠介、住野よる、西尾維新といった人気作家からケータイ小説、ボカロを用いた物語まで、幅広いジャンルが登場しており、それらは青少年の純粋な感情や自己認識を揺さぶる、彼らにとって共感可能な要素を含んでいると分析する。

読者が好むジャンルやテーマに対して、著者は肯定・否定の立場を取らず、淡々とした口調でありつつも、洞察力と理解を広げるものとして臨む。それは単なる批評ではなく、読書に対する熱意を感じさせる内容となっており、青少年に対する否定的な視点ではなく、むしろ彼らに寄り添い、大人社会が青少年とのギャップを埋め、互いの理解を深めるべきことを提唱している。大人が若者の読書嗜好に歩み寄り、対話を深めるべきであるという、説得力のある主張が織り込まれた一冊であり、大人も読書を通じた若者との関係を見つめ直すきっかけを与えるであろう。


書籍名:「若者の読書離れ」というウソ
著者名:飯田一史
出版社:平凡社(平凡社新書)