YOMEBA

読書のおともに

※ 当ブログはAmazonアソシエイトを利用しています

カニバリゼーション(山田英夫)

新しいビジネスモデルの導入にあたり既存ビジネスと衝突する「共食い現象」、すなわちカニバリゼーションにスポットをあてて解説している。著者が指摘する社内競争における問題点、たとえば既存の事業への過剰な集中や新規事業の成長不足などの案件を、企業がどのように乗り越えていけるか、健全な競争を促すための方法論を説いているのが特徴である。

まさにビールと発泡酒の事例のように、巨大な企業構造のもとでは、長年にわたり製品群やブランド、販売経路の間での社内競合が生じてきた。ただし、これまでの競合と現在の競合とを比較すると、その傾向に顕著な変化が見られる。かつては製品が完成した後にはその販売に徹底するという一方的なビジネスモデルが主流であったが、近年では製品の売却後も継続的に顧客との関係を保つためにソフトウェアのアップデートなどを行う、より繋がりを重視したビジネスモデルが目立つようになっている。例として、情報誌がウェブ媒体に移行したり、伝統的な印刷会社が電子チラシ配布などのデジタルサービスに進出したりする事例が明確に示されており、イノベーションのプロセスとそれに伴う内部競合の様子が具体的な事例に即して理解しやすい形で提供されている。

これらの事例を通して、「カニバリゼーション」は新旧のビジネスモデルが衝突する際の避けられない現象でありながらも、それを戦略的に管理し、挑戦をチャンスへと変えるための実践的な知見を描き出している。企業がどのように内部での競合を健全なものとして捉え、持続可能な成長へと導くかという視点は、変化が常に要求される現代のビジネス環境において、極めて有益な情報をもたらしていると言えよう。


書籍名:カニバリゼーション
著者名:山田英夫
出版社:ダイヤモンド社