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太閤暗殺(坂岡真)

江戸時代末期、囲碁界の頂点でありながら、歴史の渦中に身を置いた日海という僧侶がいた。彼の目を通し、織田信長から豊臣秀吉、さらに徳川家康と続く、天下を巡る壮大な物語が綴られている。坂岡真が手がけた『本能寺異聞 信長と本因坊』の物語が基盤になっており、続編的な形で、新たに『太閤暗殺』として読む者を引き込む。先に触れた前作を読むことで、主人公の背景や時代の流れをより一層理解することができるが、本作単体でも十分に楽しむことが可能だ。

当時の日本は動乱の時代であり、激動の歴史を反映するかのように、囲碁という静かな遊びを楽しむ一方、国の命運を左右するような大事件にも日海は巻き込まれていく。徳川家康が、享年63歳で病死したとされる太閤秀吉の死の謎を解き明かすよう日海に迫る場面から物語は幕を開ける。伝えたくない、伝えられない真実を抱え、日海の葛藤が描かれる。

実際に日海が目にしていたのは、本能寺の変から明智光秀が山崎の戦いで敗北するまでの秀吉の勢いだ。日海は、ある意味で当時の政治の表舞台からは遠い存在だった。その一方で、碁を通じて時代を牽引する三代に渡る天下人たちと深い関連を持ち、さらには名もない庶民たちとの交流も持つなど、格別な立場にあったのだ。日海の内面にある疑問や思いが、江戸時代の社会や人々の生活を鮮やかに浮かび上がらせている。

そして、秀吉の暗殺計画に触れることなくしては、この物語は語られない。日海が次第に知ることになる意外な秘密や計画への巻き込まれ方は読者を惹きつけ、サスペンスを際立たせる。歴史上の事実と創作が見事に融合されており、物語の結末は切迫感に満ちている。この作品を閉じた時、読者にはその時代の重鎮たる天下人たちとは何者であったのか、その存在の重さと深淵を突きつけ、深い思索を促がす。


書籍名:太閤暗殺
著者名:坂岡真
出版社:幻冬舎