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ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね)

荒木あかね氏の作品『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、オーソドックスなクローズド・サークルをテーマに展開するミステリーで。この小説は、荒木氏が非凡な才能を持つ作家であることを告げる、若さ溢れる力作だと言えるだろう。物語の核心は、一見平凡に見える青年たちが予期せぬ悲劇を迎える過程とその背後に潜む人間の業を描き出す点にある。彼らが選んだ九州の隠れた離島が、彼らを待ち受ける残酷な罠に変わる様子は、読者の想像力を最大限にかき立てる。

物語は、天草諸島の孤島を探訪した7人の若者たちとスタッフが、その不毛な地で孤立するところから幕を開ける。彼らは人里離れた海岸沿いのコテージでの一週間の滞在を予定していたが、予期せぬ殺人計画が渦巻いていた。計画者樋藤清嗣は、毒薬を携え周囲の無防備な仲間たちを次々と命を奪うことを画策していた。彼にとっての障害は、島に唯一残された通信手段を未然に摘んでおき、予定より遥か後に到着する救援の船を待つことと、予期せぬスタッフへの対処法だった。しかし、計画が始動するや否や、計画者の予想もしない方向へと物語は転がり始める。一同は、誰かが舌を切り取られた惨い姿で見つかってしま破目に遭遇し、その後も次々と起きる惨劇が彼らを襲う。そこには、前回の殺人事件の発見者が必ず犠牲となるという不可解なパターンが繰り返される。この隠されたルールの意味とは何か?

そして謎は深まるなか、物語は一旦区切りをつけ、全く違う舞台へと移行する。第二部では、大阪の街を駆けるごみ収集作業員の横島真莉愛が主人公として登場し、彼女を中心とした新たな連続殺人事件が描かれる。大阪という都市の喧騒の中でも、被害者は前の殺人の発見者であるという共通点を持つ。一見すると物語性に飛んだように見える二つの事件の間に潜む深い関係性とは何なのか、読者は解き明かさねばならない。名探偵ヘラクレス・ポアロが登場するクリスティー著の『ABC殺人事件』や、無人島で起きる連続殺人を描いた『そして誰もいなくなった』の要素を手際良く取り入れた筆致は、緊張感あふれる読書体験を約束する。

この作品は、ただの謎解きに留まらない。荒木氏の洞察に満ちた批判精神が、復讐の是非を問いかけている。先代の物語は復讐の中に正義を見出そうとするものがあったが、荒木氏は復讐の無意味さを鮮明に描く。復讐心が個人の内面に及ぼす影響は、時として正の動機づけを生むこともあるが、それを実行に移す行為自体が悪行であることを、著者は明確に断言している。この物語に込められたメッセージ性は、当代の謎解き物として新たな光を放つ。令和の時代に生まれ、新風を吹き込む、『ちぎれた鎖と光の切れ端』はミステリーファンはもちろんのこと、多くの読者にとって感動的な作品となるに違いない。


書籍名:ちぎれた鎖と光の切れ端
著者名:荒木あかね
出版社:講談社