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顔面放談(姫野カオルコ)

直木賞受賞者である姫野カオルコが綴る「顔」に対する特別な愛が満ち溢れている、エッセー集『顔面放談』。成長期に他人の家を渡り歩いた経験から、他者の顔に注目する癖が身に付いた著者は、映画やその出演者にも強い興味を抱き、独自の観察眼を養っていった。人々の名前や彼らが出演する映画作品に関する豊富な情報がページを埋め尽くしているが、その内容の濃密さは読む者を長時間引き付ける魅力にあふれている。

このエッセー集の中でも特に注目すべきは、「似顔絵ノート」とでも呼べる一風変わったノートの紹介である。著者は、似た特徴を持つ二人の人物を発見する度に、その情報を記録に留めている。例として、漫画家の長谷川町子とフィギュアスケート選手のキム・ヨナ、あるいはタレントの大橋巨泉とファッションデザイナーのドン小西といった組み合わせから、意外な組み合わせに至るまで多岐にわたる。初見では意外に思えるかもしれないが、著者ならではの分析理論に基づき紐解かれていく中で、徐々に理解が深まる読者も少なくないだろう。

また、個性的な章の構成も本書の魅力点の一つである。「岩下志麻の正三角形」といった章は、人の鼻の形を4つのパターンに分けて解説する。岩下志麻の鼻形状が正三角形に分類され、さっぱりした声が形成される背景には、見えない顔たる声の持つ重要性が関連付けられている。このように顔の造形だけでなく、メイクアップや声の調子、さらにその人が扮する役柄までもが含まれ、「女優」としての存在感が明らかにされていく手法は圧巻である。

顔というものは多くの要素によって形成されるが、そこに視覚や聴覚を組み合わせることで、人間の表情に内在する無限の魅力に気付かされる。著者の繊細で豊かな感覚を通して、読者は日常では見落としがちな人間の顔の深い魅力を再認識する機会を得られる。

書評を締めくくるにあたり、著者によって少し触れられた映画の世界を自分でも探究しようと思う。顔と映画が織りなす世界は、まさに探求する価値のある深みを湛えている。


書籍名:顔面放談
著者名:姫野カオルコ
出版社:集英社