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読書のおともに

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ぐうたら神父の山日誌(伊藤淳)

タイトルにある「ぐうたら」と「神父」という相反する言葉の対比が目を引く。思いの外、この本の著者は、かつて遠藤周作の「ぐうたら」シリーズなどを読み、笑いを通じて勉学のストレスを解消していた読書家であった。

それにも関わらず彼の人生は単なる笑い話で終わらなかった。キリスト教とは無縁であったはずの家庭で育ち、偶然選んだカトリック系の教育機関に進学。遠藤周作の『イエスの生涯』という作品から、自身を見つめなおす契機を見出し、罪深いと自認する自分に対するキリストの愛に、深い魅力を感じるようになる。

その後、登山に興じ、教育や企業勤めを経て、最終的にカトリックの神父の道を歩むことに。『ぐうたら神父の山日誌』では、国内外を巡る17の山々や、その山々を通じて出会った多くの人々とのエピソードを綴り、自身の人生において神聖な存在となった山々を神父としての人生へと導く道しるべとして捉える。

富士山での再挑戦が実り、快晴のもとで素晴らしい眺望を得た際には、「神からのご褒美」を実感する。丹沢での初日の出を目指す高校の山岳部の指導者の姿に、神父像を見て取る。スイスのマッターホルンでスキー中に遭遇した遭難と、それを三位一体の体験として捉え救われた瞬間も描かれる。

本書の後半部分は、シナイ山やゴルゴタの丘を訪れるイスラエルの巡礼の記録を兼ね備えているが、こちらもユーモアを交えつつ展開する。特にシナイ山での遊牧民のテントの灯りを見た際、遠藤周作作品と同じように、映画「男はつらいよ」の寅さんの台詞を重ねる場面が印象的である。

著者は、山を歩くことは思索への旅であると記している。かつて「ぐうたら」シリーズを読み耽り、気持ちを刷新する一助となった山歩きを通じて、今も著者はゆるやかな日々を過ごしている。そんな彼の洞察力が研ぎ澄まされていないと自負する部分に対しても、本書は味わい深い語り口で読者に寄り添う。


書籍名:ぐうたら神父の山日誌
著者名:伊藤淳
出版社:女子パウロ会