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竹取工学物語(佐藤太裕)

佐藤太裕『竹取工学物語』の中で、かつて平安時代に多方面で用いられていた竹に対する工学的研究が興味深い評価を集めている。この時代は、現代よりも、自然の恵みに深く依存しており、竹のような身近な自然素材がさまざまな形で暮らしの一部として組み込まれていた。著者は、竹という素材がどのようにしてその多機能性を獲得したのか、工学の知見を活用し紐解こうと試みる。

竹を一例に、構造力学の面から見れば、竹の節は地中深くひろがるトンネルや水管などの円筒構造体にとって、籍の配置が補剛や補強に非常に有効であるという発見がある。竹の中を通る水分や養分を運ぶための維管束は、ただの通路ではなく、竹全体の堅牢さにも一役買っているとされる。このように、竹の構造一つをとっても、そのメカニズムは決して単純ではないことが分かる。

しかし、著者は単に工学的側面だけではなく、竹の構造が私たちの祖先にどのような影響を与えてきたかにも言及する。例えば竹竿、竹ぼうき、竹とんぼといった具体的な道具に代表されるように、昔の人々は竹の持つ特徴を日常的に利用し、それらの道具を作り出して生活に役立てていたと考察する。そして、それらの実用品が、竹という素材の持つ実用性や耐久性を存分に反映した結果であると述べる。

だからこそ『竹取工学物語』のリサーチと著書内容は、道具としての利便性を経験的に理解し活用してきた歴史と、現代工学がどう対話するかを提示する。竹という素材に多角的な視点を投げかけた著者の観察眼は、読者に新たな視野をもたらすと評価できるだろう。なおこの書評では、竹の物語を通して得られる洞察の広がりと深さを強調し、著者の分析の柔軟性と、それに基づいた変わりゆく見方に光を当てたい。


書籍名:竹取工学物語
著者名:佐藤太裕
出版社:岩波書店(岩波科学ライブラリー)