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ケマル・アタテュルク(小笠原弘幸)

ケマル・アタテュルク(小笠原弘幸)

トルコ共和国の黎明期を彩った一人の偉大な指導者、ムスタファ・ケマルの波乱に満ちた生涯を綴った伝記だ。ムスタファ・ケマルの人となりから政治活動に至るまで、幅広い視野で描かれている。トルコが建国100年の節目を迎えるにあたり、その根幹を作り上げた「建国の父」と呼ばれる彼の業績に焦点を当てている。

ムスタファ・ケマルは、トルコ共和国建国にあたり重要な役割を果たした。「アタテュルク」という名は、「父なるトルコ人」を意味する称号として議会から与えられたものだ。彼はオスマン帝国の滅亡後、アナトリアが欧州の強国たちに分割されようとしていた危機的な状況の中で、民族の英雄として国を立て直すために尽力した。民族主義と世俗主義の理念を前面に押し出して、トルコ共和国という新しい国家の基礎を築き上げていったのだ。

だが、『ケマル・アタテュルク』においては、ただの英雄伝ではない。ケマルが集中的な権力を如何にして掌握し、個人の力によって国家建設が進められたという「神話」がいかにして形成されたか、そのプロセスにも迫っている。彼の個人的な生活や、彼を支えた家族、そして同じ志を持つ仲間たちとの人間関係についても触れており、さらなる興味を抱かせる内容となっている。


書籍名:ケマル・アタテュルク
著者名:小笠原弘幸
出版社:中央公論新社(中公新書)