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ヘルメス(山田宗樹)

地球の命運を左右する重大な局面を迎え、極端な挑戦にひたむきに立ち向かう人類の姿を描く、近未来的なSF作品。

この物語は、巨大シェルターとして地下深くに設けられた実験地底都市が舞台となる。滅亡の瀬戸際において人類が辿り着いた究極の選択肢、それが「ジオX計画」として知られるもので、あり得ないほど困難な状況下での生活を送ることとなる被験者たちの姿が、読者に強烈な印象を植え付ける。

「ヘルメス」は、2029年という時代背景を前提に、ある日突如として人類の運命を揺るがす小惑星の衝突が予測され、それが現実のものとなるはずだった。小惑星の脅威は確実とされたが、天変地異にも似た奇跡によって、すんでのところでその惨事は回避される。だが、たとえ未来が変わったとしても、一度体験した恐怖の記憶は決して忘れがたいもので、それは人々の心理に深く影響を及ぼす。その結果、地下に極限環境を再現した実験都市が創造されるに至る。このジオX計画への志願者として選ばれた900人の人々は、10年の期間、荒涼とした地下世界での生存を余儀なくされる。

しかし、実験の終焉が近づく中、被験者たちの中には地上の暮らしに戻ることを拒否する者たちが現れる。そして、定められた期間が終了し、サポートスタッフが撤退してからわずか4ヶ月後、地底都市「ヘルメス」と地上とのあらゆる通信が断絶してしまうのだ。読者は、この突然の沈黙が何を意味するのか、どのような結末につながるのか、強い興味を持たされる。

物語はその後さらなる謎を追加し、通信途絶から18年後のある時、地底からヘルメスのシャトルが出現し地上へ着陸する。中からはひとりの瀕死の少年が発見されるが、過酷な生活の痕が彼に深刻な影響を与えたためか、地上に戻ってから1年も経たないうちに彼は命を落としてしまう。

そしてこの物語の核心ともいえる謎へと視点は移る。一体小惑星は現実に存在するものだったのか、それともより深い暗喩として描かれていたのか、著者は明言しない。複数の時点に突如現れる小惑星の存在は、単なる天体ではなく何か人間の心象を投影しているかのようだ。2099年にもう一度小惑星の脅威が浮上し、人類は再び恐慌状態に陥るが、その真実は誰にも解き明かされていない。読んだ者は被験者たちと同じく、この不確かな未来に対してどのように向き合っていくべきか、深い思索を強いられることになるだろう。


書籍名:ヘルメス
著者名:山田宗樹
出版社:中央公論新社

 

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