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デウスの城(伊東潤)

デウスの城(伊東潤)

「宗教とはなにか」「神の存在とはどのようなものなのか」といった疑問に向き合い、苦難や苦悩を抱えた人々は歴史上多くいた。この問いは、時に人に争いや犠牲を強いる。

『デウスの城』は、そんな宗教や信仰の本質を見つめ、読者に対して思索の旅へと誘う野心的な作品である。宗教を超えた普遍的真実に迫る試みを、豊かな物語を通して展開していく。

この物語の始まりは関ケ原の戦いであり、幕を閉じるのは島原の乱である。日本国内で起こったキリスト教徒の運命を大きく揺るがした二つの歴史的事件が、物語の背骨となっている。

その中心となるのは、小西行長の宿願を胸に、故郷を失い散り散りになった三人の家臣、彦九郎、善太夫、左平次である。

彼らは、権力による厳しい弾圧に直面し、信じるもののため個々が道を選択し、歩み続ける。信仰の中に生じる矛盾や疑念に立ち向かい、そして理解したことを生きる指針にしていく。

天国の実在や救済の本質、信教の自由、殉教の価値やその正当性、さらに絶対的な信仰の定義や人の命にまつわる価値の重さなど、彼らは宗教をめぐる幾多の問題に直面する。そして、多くの受難や苦悩に、なぜ神は「沈黙」で答えるのか。物語はこれらの深遠なテーマを掘り下げていく。

物語の中で、運命が彼ら三人を再び引き合わせる。そして、今度はどのような選択をするのか、どのように振る舞うのかが描かれる。新しい試練のもとで、彼らは再び自己と向き合うことになる。

対話の場面では、登場人物同士の鋭い意見の交錯が見られ、物語は読者にとっても心理的な真剣勝負のように映る。そこでは、作者が描き出す多様な価値観と理論が、立ち現れる。

もし、時の権力者が理想の社会を築いたとしたら、宗教は無くなるのか。作者は、信仰の実態を明らかにするとともに、信仰そのものを問う。「信じる」ということそのものが、己にとってどのようなものなのかを読者自身に問いかける一冊でもある。


書籍名:デウスの城
著者名:伊東潤
出版社:実業之日本社

 

デウスの城

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