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父がしたこと(青山文平)

父がしたこと(青山文平)

江戸時代末期、天保は激動の時代だ。永井重彰は、父・元重から信じがたい話を聞く。藩主が抱える病の治療、その手術が華岡流によって施されるという計画である。

華岡流の外科医・向坂清庵は、ただの医師ではなかった。かつて重彰の息子が重病に倒れたとき、彼の手によって小さな命が救われた。そんな向坂が藩主の手術を引き受けることになれば、もしその手術が失敗した場合には向坂自身もまた、命の危険にさらされることになる。父・元重はこのような事態を予見し、何らかの手を打つ必要があると語る。

「高潔」そのものである元重。彼が下す重大な決断、それによって引き起こされる深い内省や葛藤を、息子・重彰はどのように受け止めるのか。藩医ではなく、斬新な麻酔を駆使する外科医に白羽の矢を立てた元重の選択。その背後に潜む、一族への想いと運命の波乱が際立って描かれている。

江戸時代の医療をテーマに、武家の生きざまを見事に描いている。家族の絆と、後世に残すべき遺志を胸に秘めた人々のドラマが綴られているのである。


書籍名:父がしたこと
著者名:青山文平
出版社:角川書店