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武器としての「中国思想」(大場一央)

武器としての「中国思想」(大場一央)

中国の古典思想が今の時代の難題にどう影響を与え得るか、その点を深く洞察した『武器としての「中国思想」』。中国古典の哲学が提起する様々な観念を紐解きながら、それがどのように現代社会の課題解決の助けとなるかを考察している。

本書は、一般的な啓発書の枠を超えつつ、中国の思想家たちの一連の概念に大胆な解釈を加えるところが印象的。たとえば、道や徳を重んじた孔子や、自然への従順を説いた老子といったメジャーな思想家たちに留まらず、彼らの教えが実はそれぞれの時代における実用的な志向性を含むこと、それが逆説的に極端な挙動や新たな宗教集団の形成を引き起こす結果に繋がったことなどを明らかにしている。さらに、孟子の考えからは、増税という国の強制力に頼ることなく、国民の豊かさを重視し国の繁栄につなげる方法に焦点を合わせる。

官僚制度や帝国の本質、保守主義と革新主義、個人の立場の確立など、現代にも通ずる多くのテーマに対して、中国の古典思想が提供する洞察は非常に示唆に富んでいる。

加えて、陽明学という視点から現在の日本社会の様相を分析し、個人が自らの価値観を築きながらも社会と調和を図ることの重要性を訴えている。陽明学がどのようにして個人と社会の関係性を向上させる力を持っているのか、その内容は非常に深く、また陽明学を知るための指針としても優れている。

古典を読む目的の一つは、その中から現代へと応用可能な知見を探り当てることにある。歴史は同じ形で再起しないとはいえ、人間活動におけるパターンは繰り返されやすい。日本は古来より中国の思想を取り入れ、それを独自の文化に融合させてきた。古典的な思想を学ぶ重みと、それが現代の問題解決へとどのように貢献するかを具体的に、そして鋭く示した本書は、多くの知識と視点を与えてくれる。


書籍名:武器としての「中国思想」
著者名:大場一央
出版社:東洋経済新報社