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小麦の地政学(セバスティアン・アビス)

小麦の地政学(セバスティアン・アビス)

食料としての小麦だけでなく、国家間の力の駆け引きの要素としての小麦に焦点を当てた研究書である『小麦の地政学』。この穀物が持つ地政学的な価値に光を当てることで、食料安全保障の観点から見た小麦の重要性を我々に気づかせてくれる。小麦市場は少数国家による支配を受けており、特にロシアの戦略が深く関わっている。

世界中で栽培され、日々の食生活に欠かせない小麦。その生産と輸出については、ほんの一握りの国々が大きな影響力を持っている。ロシアは世界の小麦輸出市場において非常に強い立場を占めており、その政策のひとつひとつが世界の食料供給に波紋を広げる。また、ウクライナをはじめ黒海沿岸の国々も小麦生産の大きな拠点であり、これらの地域の政治経済の動向は世界中の食料安全保障に直結していると言える。

そして、今なお続くウクライナに対するロシアの軍事行動は、小麦市場において大きな影響を及ぼしている。海上輸送の停止は、多くの国々に多大な悪影響を与え、世界の食料供給網に大きな不安をもたらした。

そうした非常事態に直面しながらも、多くの国々は自国の食糧安全保障のため、ロシアに批判的な態度をとることを避けざるを得ない。ロシアに依存する小麦輸入国は、外交政策においてもロシアに対して慎重な姿勢をとらざるを得ず、地政学的な緊張感が高まっているのが現状だ。

このような国際社会の動きも含め、『小麦の地政学』は複雑な食料問題の裏側にある戦略や影響力に関する点を詳細に分析している。また、それらを通じて現代の地政学的な力関係を深く理解することの重要性を訴えている。

読者は、小麦が単なる穀物以上の意味を持つこと、そして世界各国の運命がいかに食料供給に依存しているかについて、新たな知見を得ることができる。


書籍名:小麦の地政学
著者名:セバスティアン・アビス(児玉しおり訳)
出版社:原書房