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文化外交の世界(桑名映子編)

文化外交の世界(桑名映子編)

文化や価値観といった柔らかな力、いわゆる「ソフト・パワー」がどのように国々の関係に作用してきたかを解き明かす『文化外交の世界』。ハード・パワーとしての軍事力や経済力が国際的な影響を持つことは明白だが、文化の力はそれらとは異なる形で国際社会に影響を与えているのである。本書は、文化交流や情報の伝達が国家間の橋渡しとなる「文化外交」という領域を深掘りし、過去におけるその動向と影響力について、第一線の学者たちが多角的な分析を加えている一冊である。

「文化外交」という視点で国際関係の変遷を見ることは、単に政治や経済の歴史だけでは得られない気づきを私たちに与えてくれる。例えば、帝国主義下においても、異なる文化との接触は人々の心に変化をもたらす可能性がある。明治時代の日本を訪れたハインリヒ・クーデンホーフという外交官の目を通じて、当時の日本社会の側面が描かれ、異文化間の結婚に至るドラマチックな展開が例として挙げられている。

もう一つの興味深いエピソードとして、イギリスのインド統治時代におけるハーディング男爵の事例を挙げている。英領インドにおいて多数派を占めるイスラム教徒への配慮が、彼の視野を欧州中心から多文化を包括する方向へとシフトさせた様子が興味深い。

さらに、戦争を境にして外交の形態が激変する様子も克明に描かれる。アントニー・ベスト氏が英国の対日外交における文化的アプローチの重要性を捉え、新外交の時代への変遷を明らかにしている。一方で、第二次大戦後にフランスが行ったような、文化を前面に出した外交が直面した現実の課題をアンソニー・アダムスウェイト氏は指摘している。

『文化外交の世界』は、そうした歴史的事例を通じて、文化が国家間の対話にどのように組み込まれ、「パブリック・ディプロマシー(公衆への外交)」へと発展したかを解きほぐしている。また、現代の外交政策においてなぜそのようなアプローチが重視されるようになったのかも論じている。


書籍名:文化外交の世界
著者名:桑名映子(編)
出版社:山川出版社

 

文化外交の世界

文化外交の世界

  • 山川出版社
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