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前田久吉、産経新聞と東京タワーをつくった大阪人(松尾理也)

前田久吉、産経新聞と東京タワーをつくった大阪人(松尾理也)

戦前から戦後にかけて日本経済と文化に多大な影響を与えた実業家・前田久吉の波乱に満ちた人生を綴った伝記である。この書籍は、前田がどのようにして零細な新聞販売店の手伝いから、メディアと娯楽産業の重鎮へと成長したかを後世に伝えるノンフィクションだ。

少年期に新聞販売店で働き始めた前田だったが、その後発起人となり南大阪新聞を立ち上げることで、大正デモクラシー期の情報産業の中心人物の一人となった。逆境に立ち向かい、第二次世界大戦中には政府による新聞統合政策の中で生き残りをかけた産業経済新聞(現産経新聞)の創業へと奮闘し、編集と経営の才を発揮した。

彼の事業は新聞にとどまらず、経営から手を引いた後も教育やレクリエーション施設の創設にも尽力。マザー牧場の設立や関西テレビの開局にも携わるなど、彼の仕事は多岐に渡る。

また、本書は前田久吉の生涯をただ記録するだけでなく、大正から昭和にかけての政治、経済状況の中で一介の商人がどのように新聞業界の変革を成し遂げ、文化的ランドマークともいえる東京タワーの建設に繋がったのか、といった背景も紐解く。当時の新聞界の賑わいや戦時統制下での苦難など、歴史の裏側にある出来事を通して、読者に貴重な一面を垣間見せてくれる。

前田久吉の生涯をたどりながら、その起業家精神から多くの教訓を導き出すことができる労作である。


書籍名:前田久吉、産経新聞と東京タワーをつくった大阪人
著者名:松尾理也
出版社:創元社