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ドロドロの政治的意図から切り離したワクワクな人類史を知れる一冊『万物の黎明』(デヴィッド・グレーバー/デヴィッド・ウェングロウ)

万物の黎明(デヴィッド・グレーバー/デヴィッド・ウェングロウ)

「人類は生活の豊かさをどのように追求してきたか」という問題に焦点を当てた、幸福な生き方の指針となるような一冊だ。

教科書や従来の人類史に関する書籍では、農耕の発明が人類文明の発展を導いたという説が定説となっている。私たちは、この考え方に疑念を挟むことなく、農業の発展が文明を豊かにし、人々の生活レベルを向上させたと信じ込んでいる。しかし、それは反面、過剰な欲望を生み、紛争を引き起こし、結果として国家による強制力が人々を縛るようになったともされている。狩猟採集民が享受していた平等で直接的なコミュニティは、小規模で単純な生活様式ゆえのものだと理解されていた。

しかし、本書ではこれらの一般的な認識を覆す。農耕は狩猟採集民が始めた単なる一つの選択肢だったとしている。川が溢れれば種を植え、地が肥えて作物が実るという自然な流れを楽しんだ。これは美味しく、楽しく、手軽な方法だった。しかし乾季になると農業は苦労を要する仕事に変わり、それを放棄することもあった。彼らは時と場合に応じて、生活の仕方を柔軟に変えていたのである。

狩猟採集民もまた、コミュニティの内外でトラブルに遭遇することもあったが、基本として他者に対する支配を強要することはなかった。彼らにとっては、「王様」や「法律」もフワッとしたものだった。人々は命令に従う必要はなく、不服なことがあれば納得できるまで何時間でも話し合いが行われた。

著者の希望や願望が反映されている感はある。しかし、新しい視点で歴史を眺めなおすという意味では、実に楽しく有意義な一冊だ。


書籍名:万物の黎明
著者名:デヴィッド・グレーバーデヴィッド・ウェングロウ(酒井隆史訳)
出版社:光文社