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デオナール アジア最大最古のごみ山(ソーミャ・ロイ/山田美明訳)

ムンバイはインド経済の竜頭として国際的にもその名を馳せる存在である。しかしながら、この輝ける経済都市の裏には、見過ごせない深刻な問題が隠されている。それはデオナールごみ集積場と呼ばれる、アジア屈指の壮大な廃棄物の山である。このごみ山は、ムンバイ市民の生活から排出される廃棄物が一世紀以上にわたって無秩序に積み重ねられた結果、形成されたものに他ならない。住宅地にせり出し、環境汚染や火災の危険をはらみながら、誰も手を付けることができない状態で放置されているのである。

デオナールごみ集積場でのいくつもの現実は、ソーミャ・ロイの筆によって克明に記された。彼女は、ムンバイで融資サービスを低所得者層に提供する団体を経営しており、デオナールの住民との出会い、彼らの声に耳を傾け続けてきた。その結果が、このノンフィクション作品に深く反映されている。書かれているのは、あくまでも廃棄物の中で何とか日々の糧を得ようと奮闘する人々の日常と、彼らがどのような状況にあるのかという現状の証言である。

この中でも特に注目されるのが、ファルザーナーという少女の物語である。ごみ山の近くに生を受けた彼女にとって、幼少期からごみ山は生活の一部であり、生命線とも言える存在であった。おびただしい量のごみを目の当たりにしながらも、生きるために価値ある何かを見つけるためにごみの中を彷徨う彼女の姿は、他の追随を許さない迫力を持って伝えられる。

その一方で、都市の暮らしとはまったく異なる厳しい現実を迎えるくず拾いの人々の姿や、都市が抱える環境問題への取り組みの遅れなども克明に描かれる。都市側では、ごみ問題を巡る議論や裁判が行われており、デオナールの問題は都市運営にも大きな影響を与えている。実際、ごみ山からの悪臭や大気汚染、そして時おり発生する火災は、ムンバイ市民の健康に直結する大きな課題になっているのだ。しかし、市街地を脅かすような形で膨れ上がったごみ山を解消するための計画は容易ではなく、処理や縮小を望む声に反し、その手法には限界が見られる。

本書は、途方に暮れるほどの廃棄物の集積地で起こる生と死、人間模様を見つめ、淡々と記していく。ファルザーナーが持つ不屈の精神に焦点を当てながら、彼女の恋愛や悲劇を通じて、貧困層の生活を描き出す姿勢を貫き通す。それにより、読者はインドという国における衝撃的な現実や、社会の裏側に存在する格差という問題に直面することになるだろう。そして、知られざる現実に向き合い、見えない場所で生きる人々の状況に心を傾けるきっかけを与えてくれる作品となっている。


書籍名:デオナール アジア最大最古のごみ山
著者名:ソーミャ・ロイ(山田美明訳)
出版社:柏書房