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アンリアル(長浦京)

文学界において、特に若年層を中心とした読者に向けた作品が多くの注目を集め、ヤングアダルトジャンルの市場が拡大している状況が見受けられる。こうした風潮に乗り、物語の鮮烈な印象を読者に投げかける長浦京氏の最新作『アンリアル』は、公には若者に向けた作品と謳ってはいないものの、その緻密に構築された世界観や登場人物たちの内面描写からは、新しい時代の読書需要を捉えた作品であることが感じられる。

本作の中心人物である19歳の青年は、引きこもり生活を送りながらも、不思議な「特質」という超常的能力に悩み苦しみながら成長していく姿が描かれている。そんな彼が命の奇跡をさぐるかのように、謎めいた両親の死という出来事を突破口に捜査官を目指し、警察学校へと足を踏み入れる。しかしながら、研修の終わり間近にして犯した重大なミスにより一転、彼の人生は退路を断ち切られる。

状況は変転し、「国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」という、外側からは温和な印象を与えるが、内部では過酷なスパイ活動を主軸としている組織への配属が命じられる。紛れもない、「特質」を理由に秘密裏に組織に監視され続けていた青年は、これまでに無縁だった隠密行動へと身を投じることになる。

密やかな動きの中で、平和の維持を託された青年が立ち向かっていく過程は、ドラマティックかつスリリングに進行していき、一切の無駄を削ぎ落としたようなテンポの良さが本作の魅力の一つとなっている。

また、物語が進むにつれて、先進技術が駆使された通信機器や爆破装置などのガジェットが絶妙に配置され、スパイ活動ならではの興奮と胸躍る瞬間が散りばめられている。そのような要素が加味されることで、少年少女が密かに抱く冒険心や夢への憧れがノスタルジックに呼び覚まされるのかもしれない。

『アンリアル』を読み進めるうちに、読者自身も物語の一部として動き出すかのような高揚感に包まれる。率直な視点からすれば、この一冊には青年の心理描写に焦点を当てつつも、現代社会が抱える多くの矛盾に対する一石を投じる意欲作であると言えるだろう。


書籍名:アンリアル
著者名:長浦京
出版社:講談社

 

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