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案山子の村の殺人(楠谷佑)

案山子の村の殺人(楠谷佑)

大学生の宇月理久と篠倉真舟は気の合う従兄弟で、楠谷佑というペンネームで小説を書いている。彼らが執筆のために向かったのは、秩父の奥地にある宵待村。そこは案山子がいたるところに置かれた不思議な村で、住民も案山子に何かしらの思い入れを持っている。

そんな宵待村では、最近不審な出来事が続いていた。何者かが毒を塗ったボウガンの矢で、カラスや案山子を射ていたのだ。そして、二人は温泉から戻る途中、民宿の看板に矢が突き刺さっているのをみつける。

滞在3日目の朝、2人は神社の見晴らし台から人が倒れているのを発見。その人の額には毒矢が刺さっていた。しかも、その場所は雪で覆われており、犠牲者以外の足跡はなかった。

1年前、同じ場所である大学生が落下して亡くなる事件があった。今回の被害者は、その事件の遠因を作った人物だった。そして、姿を消していた大学生の慰霊のため作られた案山子が、再び事件現場に現れた。

読者との心理戦を織り交ぜた、エラリー・クイーン風のミステリーで、主人公の設定や謎解きには、ミステリーファンを喜ばせる遊び心があふれている。特に、「雪密室」状況は、ジョン・ディクスン・カーへのオマージュが見て取れる。

シャイな理久が物語の進行役で、人懐っこい真舟が探偵役。個性が異なる二人のキャラクターが、より物語の魅力を増幅させている。ぱっと見わかりやすい遊び心のなかにも、重いテーマへの真剣な取り組みが感じられ、それが印象的な作品だ。

丁寧な伏線の張り方と、それを活かしつつ破綻なく回収している。何より、事件を別角度から考え直さないと謎は解けないという仕掛けが読者を楽しませてくれる。


書籍名:案山子の村の殺人
著者名:楠谷佑
出版社:東京創元社