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百鬼園事件帖(三上延)

この作品では、独特の雰囲気を持つ神楽坂が舞台となり、市ケ谷の大学生である甘木と、忘れ難い風貌を持つ内田榮造教授との出会いが描かれる。教授との偶然の出会いがきっかけで、甘木は自分が人々にとって忘れられない存在になることを望み始める。しかし、カフェでの一杯のビールから始まる物語は、ただの学生生活を超えた異界へと甘木を誘う。

夜の帰り際に起きた教授の上着との取り違えは、普通では考えられない出来事へと発展していく。上着から伝わる不穏な感触が、甘木の全身を覆う。そして、その夜見た夢は彼にとって新たな現実と怪異の扉をひらく。この奇妙な繋がりは甘木と教授の関係を次第に深めていき、内田百間としても知られるこの教授を介して数々の怪奇現象が彼の前に現れることになる。

内田百間といえば、そのご存知の作品を通じて、夏目漱石の遺品にまつわるエピソードや、猫に取り憑かれた人物の怪談、芥川龍之介のポンチ絵から派生する様々な幻覚、そして未来を予見させる教え子の死など、昭和初期に起こる四つの不思議な物語が展開されている。

当時、幾多の困難に見舞われた百間だが、その苦悩の中で『冥途』のような独特な世界観を持つ作品を創造する力を持っていた。芥川龍之介との繋がり、そして芥川の悲劇的な死が、物語中でいかにして怪異ミステリーと結びついて解き明かされるのかは興味深い。三上延は、この微妙な時期を巧みに選び、百間の文学に込められた細やかな知識を物語に織り交ぜながら、現実と夢が錯綜するような世界観を表現している。百間ファンにとってはもちろん、日本文学に親しむ全ての読者にとって、見逃すことのできない作品集であることは確かだ。


書籍名:百鬼園事件帖
著者名:三上延
出版社:角川書店