YOMEBA

読書のおともに

※ 当ブログはAmazonアソシエイトを利用しています

戦国日本を見た中国人(上田信)

『戦国日本を見た中国人』は、中国からの来訪者が「日本一鑑」として綴った日本の姿を、上田信が独自の視点で解析した作品である。本書は、戦国時代のさまざまな側面を再検討し、過去の記録がどのように伝えられてきたかを検証するものである。従来、外からの視点で記された戦国期の日本像としてはイエズス会の宣教師たちが残した文献が一般的だったが、その多くが西洋の同時代人へ向けて伝えたものであり、南蛮文化が戦国社会に与えた影響に焦点を当てがちだった。

しかし、明の時代に対日貿易に従事していた中国人が書き留めた『日本一鑑』という貴重な史料に目を向ければ、戦国日本における日中間の交流が、これまで考えられていた以上に幅広く、深い影響を及ぼしていたことが明らかとなる。中国からの玄関口である屋久島を経由して日本に入り、畿内を目指す海路は多岐にわたり、その一端として堺に至るルートは、軍事的にきわめて重要な意味を持っていた。そこでは、鉄砲の普及を支える火薬をはじめとする軍事物資の流れが生じ、戦国の動乱期を支える物資供給路となったのである。

上田信は、『戦国日本を見た中国人』の中で、明と日本との交流がもつ戦略的重要性に着目し、硝石や鉛という資源がどう流入し、戦国時代の軍事動向にどのように関与したかを丹念に描写している。本書においては、日本史の新たな要素を取り入れた解釈が展開され、戦国期における国際関係の実態に光を当てている。航海の技術や商取引、文化交流の側面から、これまで語られることのなかった日本の歴史の一片が、明らかにされつつあるのである。


書籍名:戦国日本を見た中国人
著者名:上田信
出版社:講談社(講談社選書メチエ)