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読書のおともに

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庭のかたちが生まれるとき(山内朋樹)

日本庭園の静謐なる美しさは観る者の心を捉え、平穏な感覚を与える。確かに、水の流れ、石の配置、木々の緑など、目に映る光景は心地よいが、なぜそこにそれらが存在するのかは明確ではない。庭造りに携わる者の内なる想い、それを実際の庭にどのように反映させるのかは見ただけでは汲み取れないものだ。

理解するためには、既成の庭を眺めるだけでは不十分で、一つ一つの作庭の瞬間を追体験することが必要不可欠である。そこで重要となるのは、生まれ変わりゆく庭園の創造過程を精密に追い、庭師の胸中を掘り下げ、職人と素材等の交わりを詳細に観察することである。こうした過程を通して、庭園の本質を明らかにしようというのがこの著作の狙いである。

実際の作庭現場は、豊かな歴史を持つ観音寺の大聖院庭園であり、その工事は一月余りかけて行われた。本作庭を指導したのは、著名な京都の作庭家・古川三盛氏だ。そしてこの著書を手掛けたのは庭師であり、かつ美学の研究者でもある筆者自身である。

古川氏の作業は、既定の設計図や完成予想図を持たずに進められる。まさに石と心を対話させるかのように、石の配置を決定し、庭園の「重心」と「流れ」を形成する。庭師の単なる意図ではなく、まるで石それぞれが自ら位置を望むかのような自然な配列になる。

本書では、工程の第一手から始まり第三十六手に至るまでの各段階を平面図や写真、そしてスケッチで示している。工程の途中で住職の意向が入り、石組を再構築するなど、様々な変更が加わり、それに応じて新たな庭園の姿が出現する。

作業中には対立する思想が交錯し、それによって庭園の姿は決まっていく。例えば古川氏の理想とする「あってないような庭」と住職の求める「明確に存在感のある庭」の間で張り合いが見られる。同時に庭園は自己完結する小宇宙であると同時に、借景を通じて無限に拡がる世界も表現する。こうした矛盾や逆説が融合し、最終的には独自の庭園が形作られる。

本書を手にした読者に筆者は約束する。「庭を観る新たな視点をあなたにもたらす」と。驚異と発見に満ちた作庭の世界を、単なる一つの観点ではなく、多角的に捉えることができるよう導くために。


書籍名:庭のかたちが生まれるとき
著者名:山内朋樹
出版社:フィルムアート社