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人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ(ミチオ・カク/斉藤隆央訳)

『宇宙で生活する未来へ―平凡から冒険への長い道のり』と題された本作は、物理学者ミチオ・カク氏の洞察に富んだ視点で人類の宇宙進出に関する野望と現実をつなぎ合わせた傑作である。本書が提議するのは、恵まれない自然環境下で生き残るための三つの選択肢である―その場から脱出する、環境に適応する、あるいは絶滅する。生物としての我々人類の選択は宇宙への進出を探求するという明確な方向に定まっているように感じられる。

著者は実際の宇宙飛行技術から火星植民、さらにAIや生命科学といった科学の最前線まで、幅広いテーマを鋭い筆致で描出しており、まさに池上彰氏にも比肩しうる情報の提供者として注目される点が際立っている。読者はミチオ・カク氏の豊富な知識と見識から生まれる洞察に触れながら、人類が宇宙と対峙する壮大な物語に圧倒されるだろう。

時代は進み、かつてオバマ政権によって中断された宇宙開発プロジェクトも、GAFAをはじめとするテクノロジー企業のカリスマたちによる財政的な後押しを受けて再び加速し始めている。これらの企業や個人たちは、宇宙旅行の実現だけに留まらず、月や小惑星からのレアアースの採掘といった、地球への貢献も視野に入れたビジョンを描いている。それは、宇宙開発のテンポを一段と高め、私たちの夢や希望をさらに実現可能なものへと近づけているのだ。

宇宙の謎に魅了される私たちは、知的生命体の検索というテーマに瞠目する。例えば、もし他の星に水中で生きる知的生命体がいたら、我々はどのようにコミュニケーションを取るのだろうか?あるいは、物質的な肉体を超越し、自己の情報をレーザー光として宇宙空間に送出する「レーザーポーティング」等のアイディアは、物理学者としての著者の驚異的な発想力の証だ。そして宇宙の終焉が近づき、避け難い破滅が目の前に迫るとき、それを回避する方法が存在するのかという疑問に対して、答えを見つけるためには本書を熟読する他ない。

筆者自身が専門とする生命科学の分野では、人間の不死を目指す冷凍睡眠などの科学小説のような話題よりも、現実に即した老化の遅延や記憶の再生といった研究が特に引きつけられるポイントであり、我々の日常生活にも深い影響を与える可能性を秘めている。

そして、地球を離れることへの憧れと不安が交差する一点についても触れられている。スペースX社の創業者イーロン・マスク氏を含む起業家たちが、宇宙旅行により迅速な資金回収を目論んでいるのではないかという懸念も浮かび上がってくる。しかし、地球が滅びる際に救いの船「オデッセイ号」が出港し、複数世代に渡って宇宙船内で生活する羽目になったとして、その一員になりたいと考える者がどれほどいるのだろうか?人類の宇宙への憧れが、彼らが想像するほど多くの人々の心を捉えているのか、という問いを投げかけている。


書籍名:人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ
著者名:ミチオ・カク/斉藤隆央訳
出版社:NHK出版