都市の小さな隙間に息づく小規模書店や、のどかな田園地帯にひっそりとたたずむブックカフェは、その独特の雰囲気が訪れる者に心地よい癒しを与える。こうした場所は、人々の営みと本が織りなす物語が詰まっており、商業施設として展開する大規模な書店にはない、親密さや個性が際立つ。本のあり方を紐解くために、政木哲也氏は自ら足を運び、これら個性溢れる44カ所の「本のある空間」を訪問。実際の店内の寸法を測り、それをもとに手がけた立体図は、訪問者が直接訪れたかのような感覚を促す。
ここに描かれた図では、ただの間取りにとどまらない。機械的な直線を避け、手作業で描かれた図は、温かみを帯び、細部にまで渡る配慮がなされている。店舗の隅々まで行き届いた描写には、置かれた書籍やそこに集う人々の姿が加えられ、リアルな店舗の雰囲気が想像上で息を吹き返す。
それぞれの書店・ブックカフェを運営するオーナーたちの、選択した地点に込めた想いや、内装に対する深い愛着もセットで記されている。これらの情報を通じて、本を媒介としたコミュニケーションの場が、どのようにして人々を引き寄せ、旅情をかき立てるのかが明らかになる。本というメディアに囲まれた快適な空間が、読者にとって新たな発見の旅を提供しているのである。
書籍名：本のある空間採集
著者名：政木哲也
出版社：学芸出版社
