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ボナールとマティス 手紙の二人(ピエール・ボナール/アンリ・マティス/山内由紀子訳)

20世紀初頭、フランス絵画界を彩った二人の画家、ピエール・ボナールとアンリ・マティス。彼らの交流の深さをあらわす貴重な文献が、『ボナールとマティス 手紙の二人』である。この書籍は、両者の半世紀にわたる友情と芸術に対する熱い想いが綴られた書簡62通を集めたもので、翻訳を務めた山内由紀子氏の手により、日本語の読者にもその情熱を伝えている。

ボナール(1867~1947年)もマティス(1869~1954年)も、それぞれフォービスムやナビ派といった独自の美術運動を牽引しながらも、絵画の中に生命を吹き込む手法や色彩の革新において、互いに深い敬意を持ち、刺激を交わしていたことが手紙から伺える。特に彼らが50代を迎えた頃からは、交流の手段としての書簡は、ただの連絡手段に留まらず、二人の内面を探り、互いを鼓舞し合う精神的な絆が形成されていったのだ。

複数の戦争を背景に、直接対面する機会が激減した第二次大戦の時代には、彼らの間に交わされる手紙はさらに頻繁になり、読者にとってはまるで心と心が通い合う様子を目の当たりにするかのような、情緒豊かで濃密な内容へと変化していく。この変遷は、まさに二人の画家が互いの芸術と生命を深く愛し合った証左ともいえるだろう。

また、当時を知る人物の一人であり、洋画家の野見山暁治氏が寄せた言葉も、この書簡集には含まれている。野見山氏の視点から見た二人の交流は、それぞれの画風や美術史の中での役割とは異なる、より人間味あふれる側面を読み取る手がかりとなるであろう。

このように、『ボナールとマティス 手紙の二人』は、ただの文学作品や歴史資料を超えた、画家二人の想いが宿る対話の場であり、芸術愛好家はもちろん、人間の精神性や創造性に興味を持つすべての人々にとって、貴重な一冊であると言えるだろう。フランス近代絵画を代表する二人の巨匠の間に残された書簡は、後世に多大な影響を及ぼし続けている。


書籍名:ボナールとマティス 手紙の二人
著者名:ピエール・ボナールアンリ・マティス(山内由紀子訳)
出版社:求龍堂