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ピカソとの日々(フランソワーズ・ジロー&カールトン・レイク/野中邦子訳)

フランソワーズ・ジローとカールトン・レイクが共著した『ピカソとの日々』は、芸術家としても活動していた著者フランソワーズが、20世紀を代表する巨匠ピカソと過ごした時の生活や思い出を綴った一冊である。1943年のある日、パリのささやかなレストランが二人を初めて結びつけ、その後フランソワーズは1946年から1953年にかけて、彼の創造的な日々や内面に触れながら、彼の愛人兼ミューズとして共に生活する特別な間柄となった。彼女の視点から掬い取られた言葉は、リアルなピカソの姿を浮彫りにし、彼の芸術作品だけでなく、その生き様までもが伝わる貴重な証言となっている。

原著が世に送り出された1964年は、ピカソとの共有された日々からそれほど遠くない時期でした。そのため、フランソワーズの記憶は新鮮かつ生々しいものとしてこの本に反映されており、読者にとってはピカソの多面的な人間像を細部にわたり理解するのに非常に役立つ情報源となっている。特に彼の日常生活の様子や、個性あふれる性格、彼をとりまく芸術家や知識人との交流、哲学的な洞察や芸術に対する詳細な思考プロセスが、包み隠さず語られている部分は、ピカソを巡る研究において重要視されるべきポイントである。

ピカソの複雑に絡み合った女性関係についてフランソワーズは独自の解釈を示している。彼女はピカソが一種の「青ひげ症候群」に捉われていたと考え、彼が関係を結んだ女性たちとの間には、一度結びついたら最後まで完全には離れず、彼女たちが自分を忘れて新たな人生を進むことなく、彼の影響下に留め置こうとする残酷さがあると述べている。彼女の目には、この振る舞いがピカソ自身にとってエネルギーの源であるかのように映っていた。フランソワーズにとってピカソは、自己中心的で自我が強い人物であったことが窺える。

フランソワーズが祖母との共に穏やかな生活を捨て、ピカソという巨大な存在感を持つ人物と新たな生活を始める決意を下す際、彼は「自分の選択を決断したならば、それに伴う罪悪感と対峙し、謙虚にその重みに耐えなくてはならない」と助言した。その言葉は、選択の責任と結果に真摯に向き合う姿勢を示しており、非情かつ冷静な本質を持った彼の人生観を表している。

また、ピカソの作品の中から頭蓋骨と葱が組み合わさった独特のモチーフの描写に注目すると、彼はその背後にある深い造形的なつながりや象徴的な要素について、隠微な哲学を持って語った。彼によれば、「絵画は言葉ではなく、常にリズミックな造形を追及しなければならない、それが詩的な表現に他ならない」とのことであり、これは彼の静物画に対する捉え方を垣間見せる際立った考え方である。

最終的に、本書中でフランソワーズが捉えているピカソの人間像には、迷信を信じる彼の一面や、マティス、ブラック、ジャコメッティなどの著名な芸術家たちとの親密な交友関係、シュルレアリストの代表者であるブルトンらとの確執など、様々な興味深い逸話が詰め込まれている。読み手を引き込むその魅力に加えて、一人の女性の視線を通して描かれたピカソ像は独特であるが、そのためには読者自身の分析力や批判的思考を働かせることが要求される。このような一次資料の扱いには慎重さが求められ、彼女の記述がどの程度客観的事実に即しているのか、どう受け止めるかは最終的に読者の洞察に委ねられるのである。


書籍名:ピカソとの日々
著者名:フランソワーズ・ジローカールトン・レイク/野中邦子訳
出版社:白水社