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近代日本美術展史(陶山伊知郎)

日本の近代美術展開の歴史を概観した一冊、「『近代日本美術展史』陶山伊知郎著」。本書のレビューや個人的な印象について述べる。美術展が日本においてどのような経緯で誕生したのか、独自の展開を遂げてきた背景にはどのような要因があったのかを探る過程が描かれている。日本における美術展の特異性を浮彫りにするこの種の研究書は、こうした分野では事実上、それまで不足していたのである。

陶山伊知郎氏は新聞社の事業局において、長い期間をかけて美術展の企画に携わってきた。その観点から明治時代以降の展覧会の流れを綿密に解き明かし、昭和49年に行われた「モナ・リザ展」を引き合いに出しながら、その展覧会がどのような意味を持っていたのかを、多角的に論じている。美術展がどのようにして社会に影響を与え、文化の発展に寄与してきたのかを豊富な資料と具体的な例を持ち出して解説しているのだ。

さらに、興味を引きつけるのは、戦争がまだ記憶に新しい時期に開催された「正倉院御物特別展観」の背景に迫る記述である。また、20世紀を代表する芸術家であるマチスやピカソといった巨匠たちへの日本からの接触や、準備に8年もの歳月をかけた画家ゴッホに関する展覧会への道のりが克明に紹介されている。これらのエピソードは、まさに美術展が単なる絵画の展示に留まらない、幅広い社会文化的な意義を持つ事象であったことを示す貴重な資料といえるだろう。

本書により、美術展を取り巻く様々な局面や葛藤、そしてそれがもたらした影響について深く考察することができる。美術に興味をもつ人はもちろん、日本の近代化の一端を知る手がかりとしても、本書は価値ある存在であると言えよう。


書籍名:近代日本美術展史
著者名:陶山伊知郎
出版社:国書刊行会