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をんごく(北沢陶)

をんごく(北沢陶)

第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞で、大賞・読者賞・カクヨム賞の三冠獲得した『をんごく』。すでにこの肩書で、ミステリーファンは手にとってしまう。

物語は、大正時代の賑わいを見せる大阪の商都・船場。主人公である画家の壮一郎は、愛する妻・倭子の死を受け止めきれずにいた。心の穴を埋めるべく、死者と話せるとされる巫女に、亡き妻の口寄せを依頼する。だが、彼の期待とは異なり、倭子は成仏することなく現世に姿を現し始めた。しかも、その姿はかつての倭子とは異なる「何か」へと変貌を遂げていた。

この作品は、幽霊にすがりたいという切ない願いを抱える生者と、その死を認識せずに彷徨い続ける亡者との、胸を締め付ける悲哀を描いている。また、人間が抱く深い欲望が生み出す、避けられない呪いの類型も描写されている。

ただのホラーにとどまらず、壮一郎や巫女、関わる人々が超常現象の背後にある謎に迫っていく過程は、読者を推理の世界へと引き込む醍醐味がある。その一方で、地に足のついた船場の地での人々の日常はあたたかみを持ち、物語にいい意味での軽さを与えている。

「ミステリ&ホラー」大賞受賞作だが、人間ドラマ、恋愛ドラマの要素も含み、読み応えのあるエンターテイメント作品になっている。


書籍名:をんごく
著者名:北沢陶
出版社:角川書店

 


著者名:北沢陶
出版社:角川書店