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ラザロの迷宮(神永学)

ラザロの迷宮(神永学)

神永学初の本格ミステリー長編『ラザロの迷宮』。著者の代表作である『心霊探偵八雲』シリーズとは異なり、密室トリックや謎解きに重きを置いた初の試みである。

読者は、主人公であるミステリー作家・月島理と行動を共にし、彼が参加する脱出ゲームの舞台に置かれる。ここで現実とフィクションが交差し、参加者たちが予期せぬ本物の死体と対面することになる。一方で、記憶喪失の男性と美波紗和刑事による事件の捜査は、読み手をまた別の謎解きへと誘う。

混迷を深める状況の中でも物語は見事に絡み合い、一つ一つの事象が実は大きな糸で結びついていることが徐々に明らかになっていく。実際の事件と月島理生が参加するゲームのシナリオとは、微妙にリンクしながらも互いに独立したものとして読者の前で展開される。読者は著者の巧妙な構成力で、モヤモヤともドキドキともいえそうな感覚を感じることができる。

また、物語に潜む謎については、装丁にもヒントが隠されている。本を手にした瞬間から閉じるまで、ユニークな仕掛けが読者の好奇心を刺激し物語に没入させる。

『ラザロの迷宮』は、ただ謎を解くだけのミステリーではなく、読者が独自の視点で物語を追体験し、考察する余地を残している。読後感の良し悪しは人それぞれだが、神永学の創り出した世界観と緻密な構成には驚かされること間違いなしである。


書籍名:ラザロの迷宮
著者名:神永学
出版社:新潮社