YOMEBA

読書のおともに

※ 当ブログはAmazonアソシエイトを利用しています

温泉旅行の近現代(高柳友彦)

温泉旅行の近現代(高柳友彦)

温泉文化は、日本人にとってなじみ深くそして長い歴史を持っている。しかし、今のような形での温泉旅行が一般化したのは比較的最近のことである。それを詳細に分析し、変遷を追ったのが『温泉旅行の近現代』であり、様々な温泉地がいかに変わってきたかを、旅行者の目線で記述した歴史書となっている。

江戸時代までさかのぼると、温泉地への旅は主に健康や治療を求める療養行動であり、その後も長い間そのような色彩が強かった。しかし、時代を経るにつれ、鉄道が開通し交通網が整ってくると、各地で温泉地の開発が進む。次第に「療養」いう目的を超え、余暇を楽しむ観光地としての性質が色濃くなってきたのである。この変化はゆるやかにではあるが、一般の人々の間に温泉旅行という選択肢を身近なものにした。

戦後に入り、国による高度成長政策の影響は温泉旅行にも大きな影響を与えた。医療制度が充実する一方で、余暇を楽しむための温泉旅行が盛んになり、温泉はもはや単なる癒しの場ではなく、喜びや息抜きを探求する場所へと急速に進化した。

特に注目すべきは、1980年代以降に普及し始めた「露天風呂」の存在だ。以外にも、今のような形の露天風呂が登場したのは、温泉の歴史から見れば最近のことなのだ。

日本人の生活に密接に関わる温泉だが、その背景には忘れ去られた歴史や文化の流れがある。『温泉旅行の近現代』は、失われつつあるそれらを教えてくれる。


書籍名:温泉旅行の近現代
著者名:高柳友彦
出版社:吉川弘文館