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死と後世(サミュエル・シェフラー/森村進訳)

『死と後世』は、現代における哲学的問題を提起し、それを深く穿つ一冊である。著者であるサミュエル・シェフラー教授がニューヨーク大学教授としての深い教養をもって構築したこの作品は、森村進の翻訳により丁寧に日本語へと落とし込まれている。本書は、人間の死という避けられない運命と、その後の人類の未来がどのように連動しているのかを探求している。各人の終焉後に訪れるであろう人類の続きという視点を踏まえた上で、「もしも自分が死んだ後に地球が消滅するとしたら、残された時間をどのように生きるか」という挑発的な問いを提示し、読者自身に深い思索を強いる。

シェフラーの思考実験は、日常において我々が行っている活動や仕事、さらには個人的な目標が突如意味を失う可能性について考察を促す。人は、自らの存在を超えた未来への貢献や、歴史における小さな痕跡を残すことを望んで生きているのではないかという視点から、人間の根源的な願いや行動の動機を掘り下げる。私たちは普段、無意識のうちに自己の行いが将来に対して何らかの意義を持つという信念のもとに日々を送っているが、突然その信念が揺らぐ瞬間が訪れたとき、その衝撃にどう対処するのかを考えさせられるのだ。

さらに本書は、現代社会が直面している永続的課題、例えば環境破壊といった人類全体に影響を及ぼす問題に対して、私たちの歴史的な視野や責任感を喚起する。そうした大きなテーマについて、個々人の死後の世界に関する意識がどのように関係しているのか、その結びつきを明らかにしている点は特に重要な意味を持つ。日常生活で忘れがちな、世代を超えた問題に対する私たちの役割や貢献に対する意識を、『死と後世』は鋭く問い直す。

この論考が初めて日本語に訳されたことは、日本においても深い哲学的議論を促し、未来への思索を新たな形で開花させる契機となるであろう。読者に対する挑戦的な問いかけを通じて、私たち自身が歴史の流れにおいてどのように生きるべきか、何をなすべきかについての理解を深め、人生とその果ての意味を再考する一助となることは間違いない。


書籍名:死と後世
著者名:サミュエル・シェフラー(森村進訳)
出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)