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絶滅する「墓」(鵜飼秀徳)

日本人の埋葬文化とその変遷について鋭い洞察を加えた書籍である。「墓じまい」の実例に始まり、現代社会において死後の「場所」が意味するものを掘り下げている。現代人の生活圏から地縁が薄れるに伴い、墓の管理が難しくなり、その結果「墓じまい」という現象が顕著になっている。竣工する新しい墓は経済的負担も大きくなりがちで、100万円を超えることも珍しくない。墓の維持管理にかかわる実務は決して容易ではない。

このような状況は一概に現代に限ったことではなく、時代を遡れば変わりゆく社会の中で埋葬文化が変遷してきた歴史が浮かび上がる。その中でも特徴的なのが、大化の改新に関連して出された「薄葬令」である。これは墓の建設に過剰な労力を費やすことから人々を解放し、経済的な負担を軽減する効果があった。薄葬令から見受けられるように、古代の人々も現代と変わらぬ視点で死後の世界よりも生きている世界の実情を重視していたのである。

こうした折衷的な葬法の変遷に対して、鵜飼氏は歴史的な枠組みを描きつつ、地域ごとに異なる埋葬の風習を詳細に調査し、埋葬方式がどのように社会環境や信仰、文化によって決定づけられてきたのかを分析している。特に、地方の過疎化や国際化の影響を受ける現代社会において、埋葬様式がどのように進化していくのかについての洞察は、社会学的見地からも非常に示唆に富んでいる。

このような時期において、墓のあり方を模索することは避けられない課題である。少子高齢化が進む日本社会では墓所の維持者が減少し続け、これまでの葬送儀礼が縮小し、未来的な埋葬方法へと向かう流れは避けられない。故に埋葬様式の多様化は、このような変化の兆しを初めて感じさせるものである。

今後、死と向き合い自分たちの埋葬方法について決定する際、直面するであろう問題は単なる経済的な側面や利便性に止まらず、より深く日本人のアイデンティティや伝統、文化に根差したものでなければならない。この書物は、墓というテーマを巡る豊かな歴史的、民俗的背景を明らかにし、その上で著者自身が仏教僧として提起する墓不要論への疑問を投げかけ、読者に深い思索を促している。それぞれの時代を生きる我々が死後のあり方を考察する上で、この一冊がその考えを深める重要なきっかけとなるだろう。


書籍名:絶滅する「墓」
著者名:鵜飼秀徳
出版社:NHK出版(NHK出版新書)