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バロック美術(宮下規久朗)

バロック美術(宮下規久朗)

17世紀という時代背景の中で花開いた、バロックという美の潮流を包括的に説明し、その魅力に迫る『バロック美術』。この時代は社会的な波乱や文化的な躍動が顕著だったことから、バロック美術もまたその動きを象徴するように、力強く、かつ劇的な表現で満ちている。

かつてバロックという概念は、均整と秩序を極めたルネサンス美術からの逸脱として、批判の対象になりがちだった。しかし、それは時間が経つにつれ、社会の混乱や病に対する人々の不安という、当時の生の反映が色濃く現れた芸術として理解し直されるようになっていった。そして、絶対君主制による支配や、市民たちの日常といった現実が重層的に交錯しながら、バロック特有の動きと表現を生み出したのである。

本書は、カラヴァッジョなどの名匠たちが残した数多くの名作の紹介に留まらず、バロックが古典主義に対してどのように異なる姿勢を見せているのかを、テーマ別に分かりやすく解説している。また、当時の都市がどのようにしてバロック芸術を背景にして成長したのか、そして建築がどのように絵画と連動し、視覚的饗宴を作り出したのかも丁寧に読み解かれている。

「総合芸術」としてのバロックを感じることのできる本書は、カラー図版も豊富に用いられており、さまざまな作品を視覚的にも考察できる。写真や図版は、作品が持つ歴史的、社会的意味合いを理解する助けとなる。


書籍名:バロック美術
著者名:宮下規久朗
出版社:中央公論新社(中公新書)