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郊外の探偵たち(ファビアン・ニシーザ)

郊外の探偵たち(ファビアン・ニシーザ)

『郊外の探偵たち』は、多様な人種が暮らす郊外を背景にした、ファビアン・ニシーザ著の異色ミステリー。

主人公・アンドレアは、FBIでかつて犯罪プロファイルを行う仕事に携わっていたが、現在は妊婦として新しい命の誕生を待ちわびている。ある日、インド出身の友人からの相談をきっかけに、彼女は不思議な事件に巻き込まれる。「地下水脈があるから」という理由でプール建設の許可が下りないという話から、彼女は図書館の古新聞を読み漁った結果、過去に掘り出された骨の写真を見つけ出す。地元警察はそれを馬の骨だと断定していた。

『馬の骨?冗談じゃない。あれは人間の大腿骨よ』とアンドレアはつぶやく。その一言が物語の幕開け告げ、さまざまな人々が巻き込まれていく。

かつて賞を受賞するほどの記者だった地元記者ケネスを相棒に、アンドレアの頼りない夫、活発な子供達、意外な才能を持つ友人たちとともに、光が当たらない街の暗部を明るみに出すべく動き出す。それぞれ異なる人種の彼らは、素人探偵として団結し、半世紀の時間を超えた謎解きに挑むのだ。

著者のファビアン・ニシーザは、アメリカのコミック界のベテランだ。しかし、この物語ではこれまでの宇宙や超時空を舞台にした壮大なストーリーから一変。これまでとは異なる土俵で、密室とも言える住宅地で起こる人種間の軋轢や差別をリアルに描出しつつ、その中で生まれる絆や協力の大切さを、温かなまなざしで描く。

ミステリー作品でありながら、育児や日常の喜怒哀楽を描くシーンは、著者がこれまで手がけてきたアメコミのファンも楽しませる要素となっている。一方で、単なる娯楽作品に終わらないのがニシーザの筆力だ。事件に込められた悲しみや無力感などの社会的メッセージは、読む者にとっても身近なものとして受け止められる。


書籍名:郊外の探偵たち
著者名:ファビアン・ニシーザ(田村義進訳)
出版社:早川書房(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)