YOMEBA

読書のおともに

※ 当ブログはAmazonアソシエイトを利用しています

天下人の知略が詰まった「藩」の成立と、その役割を学べる一冊『藩とは何か』(藤田達生)

藩とは何か(藤田達生)

「藩」という言葉は、学校の歴史や社会の授業などで当たり前のように使われている。しかし、歴史的には江戸時代でも余り一般的ではなかったことは意外と知られていない。その時代を生きた人々は自らの属する集団のことを「国」あるいは「家中」と称していた。彼らにとっての身分や社会的なつながりは、後の時代から見ると私たちが思い描く「藩」とは異なる構造を持っていた。

一般的に「藩」という語句が広まり始めたのは、明治政府による廃藩置県が行われた明治4年以降であるという。「藩」とそこから派生した「幕藩体制」には、どんな特色や役割があったのだろうか。

戦乱に明け暮れた時代、大名たちは自らの実力で勢力を拡大し、領地・領民を武力と財力で支配下に置いた。そして、時間をかけて地域社会に深く根付いた「国」をつくった。しかし、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康は、各地に根差した勢力による下剋上の機会を奪うため、国替という手法を策定した。地元に根強い支持を持つ大名や地侍たちを、縁も所縁もなく、生まれも育ちも異なる土地へ強制的に移してしまうことで、彼らを根無し草に変え、支配を容易にしたのだ。

本書では、国替が藩誕生の絶対条件であったとし、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の治世で国替を一度も体験していない大名は稀だったと指摘する。領地や領民、そして城郭を、天下人からの預かりものであることを常に大名たちに意識させた。そして、不適格と判断された大名には改易や減封が下され、既得権を無効化した。この強権的な法の支配によって、天下泰平の実現を目指したのだ。

「藩」誕生の黎明期を詳細に分析し、地方自治の歴史的展開を追っている『藩とは何か』。幕府による各藩への統制方法、城郭や城下町の形成などにも焦点を当てており、豊富な具体例を交えながら、教科書で学んでいた歴史を補完してくる一冊だ。


書籍名:藩とは何か
著者名:藤田達生
出版社:中央公論新社(中公新書)