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豊富なカラー図版で「城」の歴史をたどる『描かれた中世城郭』(竹井英文・中澤克昭・新谷和之)

描かれた中世城郭(竹井英文・中澤克昭・新谷和之編)

中世の日本において、城は単なる強固な要塞ではなく、その時代の技術や戦術の変遷を映す歴史的文化財だった。『描かれた中世城郭』は、中世に生きた人々がどのように城を観て、想像し、絵画に表したのかを詳しく解説している。

絵画史料は、鮮やかなカラー図版で盛り込まれており、読者は中世の城郭が時の流れの中でどのように変化し、発展していったのかを肌で感じ取ることができる。特に注目されるのは、中世の防衛構造が戦争術の変遷にどう応じて進化していったかという視点だ。

例えば、鎌倉時代という時期を振り返ると、武道の中心には騎射という技術があり、戦闘において武士がいかに馬上から的確に矢を放つかが勝利の鍵を握っていた。そのため、当時の城門や木戸は防衛の要として重要視され、敵の騎馬隊の突撃を防ぐための重要な施設だった。その様子は『粉河寺縁起』や『一遍聖絵』といった絵巻に描写されており、2階建ての矢倉門が守勢にとって重要であったことがうかがえる。

また室町時代については、一色氏の館や、京都近郊の寺の門前など、当時の重要な施設の防衛体制についても図版入りで詳しく説明されている。

現在一般的な「城=天守閣」は、戦国時代以降の城郭に対する認識だ。本書はそれよりも前の時代に目を向け、古城の実態を明らかにすることに焦点を当てている。歴史という長い時の流れの中で、城郭がどのような役割を果たし、その姿をどのように変えていったのか、歴史好きには嬉しい一冊だ。


書籍名:描かれた中世城郭
著者名:竹井英文中澤克昭新谷和之
出版社:吉川弘文館