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賃金の日本史(高島正憲)

日本における賃金労働の歴史的変遷を詳細に追った著作である。我が国において貨幣経済が花開いた古代から、どのような職業にどれほどの額の賃金が払われてきたのかを調査するためには、多岐にわたる古文書を解読し、それに記された表面上の賃金の数字から始まる精密な研究が求められる。それに加えて、当時の物価を把握し、名目上の賃金を実質の価値に換算することによって、それぞれの時代における労働者の実際の生計レベルを浮き彫りにする作業は、数量経済史研究の一環として不可欠である。実際の賃金が時間を超えてどのように変化してきたのか、この一冊は、長い年月をかけた日本の賃金史を克明に綴った貴重な研究成果である。

本書では、特に前近代の賃金労働の主役であった職人たちの経済状態に光を当てている。例えば、中世日本における熟練職人たちの日給は、時が経てどのように変動したのかを深く掘り下げている。それによると、数世紀に渡ってほぼ1日100文という賃金レベルが続いていたという興味深い事実が明らかにされる。しかしながら、この名目賃金が物価の変動にどのように影響を受けずに保たれてきたのかという問いへの答えを探ることで、近代経済とは一線を画する画期的な経済の仕組みが見て取れる。その解明は、歴史の多様な層を厚くすることになるし、歴史から経済の真実を読み解くことにつながるだろう。

この書籍は、単なる金額の変遷をたどるにとどまらず、労働者の暮らしや経済構造の変化までを包括した、幅広い視野からの賃金史の描出となっている。今まで語られることのなかった日本の賃金史が、豊富なデータと確かな分析手法により解明されることで、経済史研究において重要な一石を投じる結果となっているのは間違いない。


書籍名:賃金の日本史
著者名:高島正憲
出版社:吉川弘文館