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日本史を支えてきた和紙の話(朽見行雄)

日本史における重要文化としての和紙の起源、発展、そして現代に至る役割について深く掘り下げている。著者は、三世紀頃の中国の史書「魏志倭人伝」に記された、邪馬台国の女王卑弥呼が魏に送った返書について言及し、当時の日本がどのような書物を使用していたかに注目を向ける。和紙の誕生以前の書写材は何だったのか、それが文化や歴史にどう影響を与えたのかを探究する。また、和紙文化研究会に所属する専門家たちが実施した和紙の製法や品質に関する緻密な分析を基に、和紙が日本人の生活や文化の中核にどう位置してきたかを解き明かす。

和紙は、古来より書写材としてだけではなく、芸術作品のキャンバス、伝統建築における障子など、様々な形で人々の生活に溶け込んできた。著者は、和紙の起源に関して数多くの説がありながら、古墳時代にその起源を見いだす可能性を指摘している。和紙がもたらす影響は、平安時代の文学作品の生まれや、その後も続く和紙の独自の進化といった形で示されている。書かれる文化であれ、表現される感性であれ、「日本人の心は、和紙なしでは語り得ない」との強い認識を持つ。

さらに著者は、紙のデジタル化が進む現代においても、和紙が持つ歴史的価値を見出し、新たな用途や役割を模索する姿勢が示されている。これまでの歴史的背景を重んじながらも、伝統の技を守ることと技術の革新とを融合させ、和紙の未来を展望している。それは不易流行を体現する日本の精神性が、紙の世界にも息づいていることを示唆しており、和紙の存在は単なる文化遺産ではなく、現代社会における文化の創造と継承においても重要な役割を果たしていくだろう。


書籍名:日本史を支えてきた和紙の話
著者名:朽見行雄
出版社:草思社