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古墳を築く(一瀬和夫)

『古墳を築く』は、日本各地に遺された古墳に対する新たな視座を与えてくれる。第3世紀から始まり数世紀にわたって築かれたとされる約16万基の古墳群は、単に死者を埋葬する場としてのみならず、その巨大さと独自の建築様式においても重要な価値を持っているとされる。歴史的な時代背景を反映し、また社会的な階層構造を物語る存在として、古墳が持つ意義を、構造や変遷する形式に焦点を当てて掘り下げている。

葬祭文化と建築技術の結晶である古墳は、複雑な社会構造を有していた古代日本において、権力者や支配層の象徴として位置づけられていた。考古学の専門家である一瀬氏は、古墳の構築手法やその変遷について詳細に分析を加えており、一般にはあまり知られていない下地作りからの全工程に踏み込んだ解説を行っている。特に、前方後円墳という独特な形状を持つ古墳の造営においては、土地の整地から始まり、後円部分の構築を最初に行うという手法が何世紀にもわたって踏襲されてきたことを明かしている。

当該書籍では、古墳のサイズが最大化した5世紀前半の状況にも光を当てている。起初は小規模であった前方部分が、時代が下るにつれて後円部分を上回る大きさに成長していく過程を丹念に追った記述がなされており、古墳それ自体の形状が時代と共にどう変遷していったかについて理解を深めることができる。

この書籍を読むことで、読者の古墳に対する見方が一変するだろう。著者の豊かな経験と深い洞察に裏打ちされた分析は、古墳に関する定石的な解釈を超え、古代社会を構築していた人々の知恵と技術、そして社会構造を理解する手がかりを与える内容となっている。シンプルかつ緻密に構築されたこのテキストは、専門家だけでなく、歴史や文化遺産に関心を持つすべての読者に有益な情報を提供するものといえる。


書籍名:古墳を築く
著者名:一瀬和夫
出版社:吉川弘文館