YOMEBA

読書のおともに

※ 当ブログはAmazonアソシエイトを利用しています

所有とは何か ヒト・社会・資本主義の根源(岸政彦/梶谷懐)

私たちは日常的に自分の車や家といった購入品から、特許や著作権のような抽象的な権利にいたるまで、さまざまなものを保有したいと願う。個人のアイデンティティや富の象徴としてだけでなく、社会的な地位や他者との関係性の表れとしても、所有することは重要な意味を持つ。この多面的でまれに矛盾を孕む概念は、所有というものが単なる資産の集積では終わらないことを示唆している。その背後にある経済的欲求、法的根拠、または社会的動力までもが複雑に関連している。

『所有とは何か ヒト・社会・資本主義の根源』は、そのような所有に関わる数々の側面を探求することを目指した、学術的努力の成果である。多岐にわたる学問領域の専門家たちが集い、それぞれの視点からこのテーマに迫っている。6人の著者がそれぞれの視点で所有の概念を解析し、より理解しやすい概念へと再構築している。

幼少期に目にする「それは私のもの」という子供たちの妬み合いは、所有の原初的な姿と見ることができるだろう。子供は他者が何を持っているかに興味を示し、自らも同じものを欲しがるという欲求を通じて、所有という概念について学んでいるのである。成長するにつれて、自己の利益追求と共同体の利益や社会規範との調和の重要性を身に着けるのである。しかし、資本主義社会に生きる私たちにとって、経済的な判断や得失の計算を避けて通ることはできない。これは、私たちの日常生活に深く根ざした概念として、所有がいかに存在しているかを示している。

例えば、タンザニアにおいては、「ケチ」という言葉があたかも呪いのように扱われる。「ケチ」を罵倒の言葉として使用し、共同体や人間関係の中での贈与の価値を表している。所有とは私的な狭い枠組みではなく、贈ること、分かち合うという行為自体が人々の人間関係を豊かにし、コミューンとしての絆を築いていくために重要視されているのである。

世界システム論を参考にすれば、資本主義は外部の物や人を取り込みながら成り立っている。収奪と搾取から脱却し、互いの利益を尊重する関係性への転換が社会の変化を促す要素となるだろう。多彩な例や著者の解説は、社会の多様な未来と可能性を読者に提示している。


書籍名:所有とは何か ヒト・社会・資本主義の根源
著者名:岸政彦梶谷懐
出版社:中央公論新社(中公選書)