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親の「死体」と生きる若者たち(山田孝明)

山田孝明の筆による『親の「死体」と生きる若者たち』という書籍は、日本の社会問題に鋭く光を当て、私たちの心を揺さぶる作品である。特に、ひきこもりとその家族が直面する過酷な現実を描き出し、多くの人に衝撃を与えつつ、深い省みを促している。

北海道札幌市のある寂れたアパートで発見された82歳の母親と、52歳になるその娘の死体。娘は長い間社会からの隔絶した生活を送り、二人の生計は母親の年金だけに依存していた。貧困という厳しい現実の中、母親は餓死し、娘もその後に力尽き命を落とした。この悲劇は、単なる個別の問題ではなく、「8050問題」と呼ばれる、高齢の親とその中高年になるひきこもりの子供という社会構造問題の顕在化を示している。加えて、遺体を放置することから発展する遺体遺棄の疑いで逮捕されるようなケースも散見されるほど、状況は深刻である。

この問題を原因と結果の両面から解剖し、訴えかける書籍では、ひきこもり当事者や家族支援団体の代表である著者が、目の当たりにした絶望的な状況と緊迫した時実を冷静かつ熱く報告している。社会的孤立という深い闇の中で、解決策を求める声が高まっているが、それに十分な応答が出来ているのか、という疑問を提起している。小中学生の不登校生徒の数が23年間で倍増している現実に触れ、社会全体の教育や支援のあり方に積極的に疑問を投げかける。

その一方で、不登校やひきこもりの問題を、発達障害という言葉で片付ける風潮があり、子どもたちを孤立させる自己責任論が根強く、彼らが安心して過ごせる場所が失われつつあることを強調している。本書によれば、現在日本には40代から64歳までのひきこもりが61万3千人存在し、総数では100万人を超えると推計されている衝撃的なデータが提示される。この問題への具体的な対策や解決策は何かあるのかという問いに対し、山田氏は文章を通じて答えを探求する。

山田氏は「手遅れ」という悲観的な見方を示しつつも、諦めていない姿勢を明確にしている。効果的なケアや支援のシステム構築を提案し、変革を促す。もはや無関心を決め込む時代ではなく、必要なのは積極的に関わる勇気と、社会全体による変化だと力強く説いている。本書は、それ自体が社会に対する一つの介入として機能し、我々に行動を起こすきっかけを与えている。そして、それは社会的な支援の適切さというプリズムを通して、誰もがあるべき安心して生きるための環境を考える契機となるだろう。


書籍名:親の「死体」と生きる若者たち
著者名:山田孝明
出版社:青林堂