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ハンティング・タイム(ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳)

ジェフリー・ディーヴァーと聞けば、ミステリー愛好家の心は高鳴る。彼の名前は、予測不可能な展開と驚愕のどんでん返しで知られ、まさに読者を困惑させる天才であるとされる。その彼の著作『ハンティング・タイム』は、予測を裏切り続けるストーリーの印象的な一例であり、池田真紀子の訳によって日本語の読者にもその興奮が伝えられている。

実は、ミステリーの醍醐味は読み解く楽しみにあるとみなされがちで、物語の予想外の転回を暗示することは避けるべきとする意見が少なくない。なぜなら、それにより読む前の期待感や驚きの喜びが減じられてしまうからだ。しかし、ディーヴァーの作品群の中では、この慣例はあまり意味をなさない。というのも、彼の作品はいくら構えて読み進めても、多層的なストーリーと巧妙に配された伏線が読者を圧倒し、結末に到ると彼の策略に完全に陥落させられているからである。

そうした作家の手による『ハンティング・タイム』は、登場するだけで警戒を促す帯文に据えられた「ドンデン返しの数、合計21個」という文字が示すように、頭脳プレイが際立つ作品だ。ストーリーの中心にいるのはコルター・ショウという人物で、彼は行方不明者を発見することを生計とする懸賞金ハンターである。シリーズ第4弾となる今作では、革新的な〝携帯型〟原子炉を開発した才知に溢れる女性技術者が、自らの娘を連れて忽然と姿を消す。その女性は暴力を振るう元夫により苦悩を味わっており、彼は不可解な理由で刑務所から早期に釈放され、妻が投げ込んだ告発に対する復讐のために彼女を執拗に追っている。彼女の安全を確保するためという名目でショウに依頼が舞い込むが、追われる女性が非凡な知能を持ち、逃避行の手練手管に長けているため、果たして彼女を捕らえることができるかの疑問符がついている。

そして、凄腕の元夫には、過去の犯罪組織との繋がりがあり、彼はオーガニゼーションのボスに復讐を手伝うよう依頼する。さらにはそのボスが冷酷な殺し屋を2名送り込むという事態に発展する。これにより、血気盛んな探偵、冷酷な殺し屋、そして逃亡中の母娘、三者三様の思惑が衝突する追跡劇が繰り広げられるのである。表面に現れた事象はすべて疑わしく、自身の推理が正解に辿り着いたように錯覚することも多いが、その読みは容易に覆される。読者を次々と惑わすディーヴァーの策略は、本当に見事なものである。


書籍名:ハンティング・タイム
著者名:ジェフリー・ディーヴァー(池田真紀子訳)
出版社:文藝春秋