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賢治と「星」を見る(渡部潤一)

宮沢賢治が生み出した不朽の名作「銀河鉄道の夜」を含む彼の業績は、今年で彼の逝去から90年が経過するなかで、未だに人々の心を捉え続けている。その作品群を読むとわかる通り、賢治は天体への深い関心を抱いていた。この興味の深さは、ただの趣味レベルではなく、相当な専門性を感じさせるものがある。

そんな彼の天文学に対する造詣の深さを検証し、その思索に迫ろうとする試みが、渡部潤一氏の著作『賢治と「星」を見る』に表されている。天空に浮かぶ夜空を凝視し、何を感じ、何を想像していたのか。賢治の内面と向き合って想いを馳せる宮沢賢治に対する研究は、天文学者の視点を通じて新たな光を投げかけている。

著者渡部氏自身も、宮沢賢治が少年時代を過ごした旧制盛岡中学校での寄宿生活という共通の背景を持ち、孤独を共有している。そのため、賢治が星々を眺めて感じた孤独の癒やしや慰めについて、渡部氏は自身の体験を通じて紐解くことに成功している。賢治が綴った月の輝きや色彩が移り変わる様子についての詩も、その観察眼と表現の巧みさを通して見直され、文中で賢治がどの夜にどのような月を見たのか、月の満ち欠けから特定し、彼の観察の正確性を立証し称賛している。

渡部氏の『賢治と「星」を見る』は、宮沢賢治の魅力を天文学という特異な切り口から解き明かす試みであり、37年の短い生涯を過ごした賢治の世界へと私たちを誘う。天体観測という趣味を通じて賢治の心境に迫り、彼の詩歌や作品への新たな理解を与えるものだ。研究者としての観点だけではなく、夜空を一緒に見上げる一人の人間としての親しみや、彼が抱いたと推測される感慨を、読者にも感じさせることに成功している。


書籍名:賢治と「星」を見る
著者名:渡部潤一
出版社:NHK出版