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読書のおともに

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こんな感じで書いてます(群ようこ)

執筆生活40年という長きにわたり、数々の作品を世に送り出す中で、作家群ようこ氏が明かす執筆の極意とは、体験した人生そのものがネタの源泉であるということだ。身をもって体験した内容が、読者にとっても生きた物語となり、共感や感動を呼ぶ要因になっている。作品群の中には「無印物語」シリーズや『かもめ食堂』などがあるが、これらは単なる創作で終わらず、群氏の人生観や価値観の表現として評価されているのだ。

デビュー当時の苦労話も率直に明かされており、読者から厳しい批判を受けたこと、家族の経済的負担を一身に背負ったこと、さらには成功を妬む出版関係者に無視されたことなど、決して順風満帆とは言えない過去があった。しかしながら、群氏はこれらの逆境をも前向きに捉えることで、あらゆる経験を作品創作の糧としているのである。彼女の持つ潔い姿勢や肯定的な視点は、読者にとっても刺激的である。

また、創作のヒントの捉え方において、群氏は独特な答えを持っている。あくまで自然体で日常に溢れるアイデアを拾い上げ、それを作品に落とし込む姿勢は、多くの創作者にとって参考になるだろう。日々の暮らしの中で巡り合う興味深い出来事を見逃すことなく、物語に変えるプロセスは、単なる創作活動にとどまらず、人生を豊かにするヒントとして捉えることができる。

この作家の集大成とも言える自伝的エッセイであるからには、単なる作品集約だけに留まらず、執筆の裏表が混在する内容が特徴である。創作教室でのエピソードも織り交ぜながら、作品の価値は読者数や売上に左右されるものではなく、どれだけ無駄と思える経験を抱えているかが重要と教えている。これは群氏の個人的な経験に根ざしており、そこから多くの作家志望者へのエールとなっている。

経歴を紐解けば、群氏が「本の雑誌社」への入社を経たことが、後の作家人生に大きな影響を及ぼしたのは明らかである。群氏にペンネームを提案した故・目黒考二氏とのエピソード、そして彼への敬意がこの著作にも強く反映されている。執筆における産業の側面として、人々の心を明るくする「すきま産業」という認識も示されている。それは群氏の謙虚さと魅力を物語っているのだ。


書籍名:こんな感じで書いてます
著者名:群ようこ
出版社:新潮社