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ルミネッセンス(窪美澄)

戦後の急速な都市開発の結果として出現した団地は、現在、その存続に危機感を抱えている。昔ながらのコミュニティを支えている住民もいるものの、空き部屋が目立つようになり、新しい住人を迎える活力が失われつつある。団地の一つ一つには歴史があり、そこには多くの人々の生活が息づいてきたが、時が流れるにつれて、その魅力は色褪せ、新たな流入が減少している。

窪美澄の短編集『ルミネッセンス』は、そうした団地と、それに隣接する寂れた町を舞台に、住民たちの生き方を綴っている。例えば、「トワイライトゾーン」の物語は、かつてその団地で過ごした少年が成長し、家を訪れたところから始まる。彼にとって郊外団地は懐かしい土地であるはずだが、時間の経過と共に変わってしまった団地は失望感を覚えさせる場所になってしまった。

この短編集の中で見受けられるのは、場所に対する感情よりも、そこに暮らす人々の内面的な問題である。女子高校で数学を教える中年男性の教師は、その例に漏れず、日常生活に生きがいを見出せずにおり、仕事に対しても私生活に対してもやりがいを感じることができないでいる。娘との関係がうまくいっておらず、離婚も経験している。人生に対して虚無感を抱えていた彼は、偶然出会った少年に深い感情を抱く。この少年は他の顧客に体を売っているが、主人公はそのような関係を築く代わりに、赤い熱を込めて数学を教える。そこには、自身が生徒に与えられなかったものを与えようという願望があるのかもしれない。

しかし、この学びの時間が永遠には続かない。少年との関係の均衡が崩れたとき、主人公の生はさらに暗雲に包まれていくのである。短編集には他にも様々な登場人物が描かれている。例えば、閉店後に客の要望に応じて店を再開する文房具屋の主婦や、同窓会をきっかけに不倫に陥る男、虐められる女子中学生と祖父、そして女性から逃れるようにして団地へ引っ越してきた男などがいる。それぞれのキャラクターには、「こうなるはずではなかった」という打ち捨てられた夢や希望が垣間見える。彼らに共通するのは、生活において大きな目標を掲げていたわけではなく、むしろ積極的に何かを追い求めることなく時間を過ごしてきたことである。その結果として、現在に至るまで何も変わることがない、停滞した生活を送っている。

この短編集の物語は、郊外団地という場所が持つ閉塞感と人々の停滞した生活が相互に作用し合いながら、読者に強烈な印象を与える。過去の栄光は失われ、未来に対する展望も見いだせない団地の姿は、登場人物たちの心の状態と鏡のように重なり合っているのである。


書籍名:ルミネッセンス
著者名:窪美澄
出版社:光文社