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人間国宝という生き方(渡辺紀子)

『人間国宝という生き方』は、重要無形文化財保持者である人間国宝たちの半生を丁寧に辿りながら、彼らの深い思索と創作活動に対する熱い情熱に光を当てている。この本は、友禅の分野で活躍する森口邦彦氏をはじめ、蒔絵の室瀬和美氏、また備前焼で知られる伊勢崎淳氏など、多彩な分野で活躍する実に30名の匠たちのエピソードを掘り下げたインタビュー集である。それぞれの作家の手掛ける芸術作品が、単なる美的対象で終わらないように、彼らの人生の軌跡や創作に込めた意志、哲学を緻密に記録している点が際立っている。

表面的な作品の紹介を主眼とせず、人間国宝たちが如何にしてその技術を磨き、精神を高めてきたのかを本書では追求する。読者には、彼らが日本の伝統工芸の理念と自己の創造性をどのように融合させ、同時に新たな時代の流れに対応しようと努力する様子が生々しく伝わってくる。それは、模範となるべき職人の在り方を学びつつ、読者自身の生き方を省みる機会を提供してくれる内容だ。葛藤と試練を経て一定の業績に達し、達観した境地を見出した彼らの言葉には、深い重みが感じられ、読む者の心に刺激と感銘を与えている。

本書にはまた、手仕事の繊細な一挙手一投足を捉えた写真が多数収められており、これによって読者は匠たちの技が華麗な作品に変貌する瞬間を目の当たりにできる。工芸家それぞれの持つ精神性や創作に対する姿勢が、言葉だけではなくビジュアルを通しても強く伝わる構成となっている。エッセンスを抽出したような匠の言葉と共に、豊かな写真が物語る匠たちの世界観が織り成す事象が、読者にとって一層の理解を深める一助となることだろう。


書籍名:人間国宝という生き方
著者名:渡辺紀子
出版社:淡交社