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江戸に向かう公家たち(田中暁龍)

江戸時代を舞台に公家たちの生活とその時代の背景について詳細に記述している。公家たちは、天皇からの勅命を携えての勅使として江戸へ下るほか、女性公家が将軍家に嫁ぐケースや大奥で奉公することもあり、その移動は時の政治や社会と深いかかわりを持っていた。公家の存在は、法的にも増加しており、幕府により数が倍にされた事実があることを指摘し、彼らの生活がどう変わったのかを掘り下げている。

この時代、公家は経済的に幕府に依存する側面が強く、自らの所領を与えられることによって収入を得ていた。一方で、京都の文化や風俗を江戸に伝達する役割も果たし、文化交流の重要な橋渡しを行っていた。また、きちんとした装束や礼法を武家社会に伝えることで、武士たちの生活の洗練に一役買い、公家特有の装いや振る舞いは武家社会にも求められるようになった。

田中はさらに、公家が娯楽面でも一定の影響を与えたことにも注目している。具体的には、蹴鞠を始めとする伝統的な遊びや技芸で、公家たちが家元として認識され、権威を笠に着た形で各種文化免許を発行し、そのような権限を活用した収入源を確立したという。これにより、武家の中でも公家に弟子入りを望む者が現れ、文化面での師弟関係が形づくられた。そして、そういった繋がりから、歌を詠む会など、文化的な交流の場が武家の中にも広がり、公家と武家が互いに深い関わりを持ちながら共生していた時代の様子が浮かび上がる。


書籍名:江戸に向かう公家たち
著者名:田中暁龍
出版社:吉川弘文館