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帝国ホテルと日本の近代(永宮和)

東京の中心地、日比谷公園を臨む帝国ホテルは、明治政府による欧化志向のもと、外国の賓客向けの施設として華々しい歴史を開始した。その点を抉るかのように、永宮和氏の著作『帝国ホテルと日本の近代』は、国家の方針と息を同じくしながら多くの節目を迎えたこの歴史的建物のドラマチックな生涯を丁寧に解き明かす。改築や再建を繰り返しながらも、ホテルが留めてきた時間とその中で生じた多くの出来事は、まさに「近代日本」そのものを彷彿とさせる趣がある。

著作で掘り下げられるのは、ホテル建築という「ハード」の側面である。大正時代、世界的にも名高い建築家フランク・ロイド・ライトによって、長い出産期間を経て完成した帝国ホテルの象徴とも言える「ライト館」に纏わる興味深いエピソードが紹介されている。この建物は、単に美しい装飾タイルや大谷石で視覚を捉えるだけでなく、その鉄骨構造や技術的革新が、いかに当時の建築業界に影響を与えたかを示している。また、地下の茶室にもライトの東洋への憧れが表れ、洗練されたデザインと機能性の融合により、国際的な視点を持つ特別な空間を創り出した。

しかし、ライトの余りに詳細な要求は、納期遅延や予算の大幅な超過を引き起こし、敷地内の資金繰りに苦慮した林愛作を含めた当時の経営陣を度々困らせた。その工程においては、まだ西洋への憧れと自国に対する複雑な劣等感を抱える時代背景が、これほどまでの野心的な構想を現実化させる動力となっていたことは明白な事実である。

多くの政治的大事件や戦争を経てさえもその絢爛たる姿を保ち続けたライト館だが、長い年月を経て昭和42年に老朽化が進むと、その歴史に幕を閉じることとなった。その一部は犬山市にある博物館明治村でいまも保存公開され、永きにわたるホテルの息吹を感じることができる。

今日では、世界中からの高級ホテルチェーンが競い合う厳しい市場環境の中、帝国ホテル東京は新たな挑戦を企てている。その進化する姿は、令和18年に予定される新たなる本館の開業により、新世代の象徴となり得るだろう。この地に建てられたホテルが次にどのような物語を築いていくのか、その成果は誰もが息をのむような刷新された姿を見せることになるであろう。


書籍名:帝国ホテルと日本の近代
著者名:永宮和
出版社:原書房